【新作映画レビュー】語り継ぐべき女性たちのストーリー。『第三夫人と髪飾り』

ベトナム映画『第三夫人と髪飾り』を紹介します。

『第三夫人と髪飾り』とは・・・

予告編

あらすじ

19世紀の北ベトナム。奇岩が連なる断崖絶壁の山々に囲まれた深い渓谷を流れる川を、メイ(グエン・フオン・チャー・ミー)は花があしらわれた舟で上ってくる。絹の里であるこの地を治める大地主(レ・ヴー・ロン)のもとに、14歳で嫁いできたのだ。
一族が暮らす大邸宅には、一人息子を産んだ第一夫人のハ(トラン・ヌー・イエン・ケー)、3人の娘を持つ第二夫人のスアン(マイ・トゥー・フオン)がおり、メイは三番目の妻となる。一族にはすでに第一夫人の息子ソン(グエン・タイン・タム)がいたが、若き第三夫人にはさらなる世継ぎの誕生が期待されていた。
まだ無邪気さの残るメイは、2人の夫人に見守られながら穏やかな毎日を送っていた。しかし次第に、ここでは世継ぎとなる男児を産んでこそ“奥様”と呼ばれることを知る。
ほどなくしてメイは妊娠。出産に向けて四季が巡る中、第一夫人も妊娠していることが発覚。時を同じくしてメイは、第二夫人のある秘密を知ってしまう。

映画『第三夫人と髪飾り』公式サイトより

作品情報


原題:The Third Wife

監督・脚本:アッシュ・メイフェア

出演者: グエン・フオン・チャー・ミー 、トラン・ヌー・イエン・ケー(『青いパパイヤの香り』『シクロ』『夏至』)、 マイ・トゥー・フオン 、 グエン・ニュー・クイン ( 『シクロ』『夏至』) 、 レ・ヴー・ロン (『夏至』)

上映時間:95分

日本公開日:2019年10月11日

公式サイト:http://crest-inter.co.jp/daisanfujin/

この映画の見どころは?

女性たちの歴史に思いを馳せる。

 『第三夫人と髪飾り』には、過去と現在の女性の問題を考えるヒントがたくさん詰まっている。

 この映画は主人公のメイが14歳という若さで大地主の家に嫁ぐところから始まる。現代から考えればとてつもなく若すぎる花嫁だが、当時はそれが普通のこと。家同士で決められた結婚で、もちろんメイが選んだ相手が夫ではない。

 しかも夫となる人にはすでに二人の妻がおり、子供もいる。一族の繁栄のためにさらに世継ぎが必要で、若い妻が追加投入された感がいなめない。

 そしてメイは、父親といってもおかしくない年齢の夫との新婚初夜を迎える。14歳の少女がほとんど初対面の年上男性と初めてのセックスをしなければならないというのはどんなに恐ろしいことだっただろうか。また夫にとっても、すでに成熟した大人の女性の妻が二人もいるにもかかわらず、まだ子供のような少女と初夜の義務を果たさなければいけなかったというのは、相当キツイことだっただろう。

 このような状況が日本も含めて世界中で起こっていたことは、アッシュ・メイフェア監督がこの作品を自分の曾祖母の話に着想を得て制作していることと同様、身近な女性の先輩達の話を聞けばわかるだろう。また残念ながら21世紀になった今でも、少なくない数の女性たちが同じような状況に置かれたままだ。

  ただ、この映画で描かれているメイの暮らしは平穏そのもの。仲の良い大家族の美しい土地での幸せな暮らしにさえ見える。それは 「一夫多妻」という制度の中に生きる家族が、そのいびつさと現実的にどのように折り合いをつけながら暮らしていたか、というリアリティを重視して描かれているからだ。

 実際にメイフェア監督がこの作品のモデルとなった曾祖母に妻たちの関係性を尋ねたところ、妻たちは現実の生活の大変さのため、互いに協力しながら暮らさざるを得なかったとのこと。一見淡々として見える生活は妻たちが必死に作り上げたものなのだろうと感じる。『第三夫人と髪飾り』は、女性たちの現実を生きぬく強さを称えた映画なのだ。

本国では4日で上映中止に。オープンに語られる女性の性。

 『第三夫人と髪飾り』はメイフェア監督の母国、ベトナムでは公開4日で上映中止に追い込まれてしまった。その理由の一つが、この映画では女性の欲望や官能性を描写しており、それが保守的な人たちを刺激してしまったことにあるという。

 メイフェア監督はインタビューで、「 官能性もセクシュアリティも女性であることの一部 」「 出産や官能性もすべてを抱きとめるということは女性性を祝福するということ 」( トーキョー女子映画部 https://www.tst-movie.jp/int/daisanfujintokamikazari-ashmayfair20191007.html より)と話しており、フェミニズム的なテーマを含むこの作品にとって、女性の性を描くことは欠くことにできない要素だったのだろう。

 そんな監督の思いもあってか、この作品では生活の中に自然に「性」が存在しているのが印象的だ。二人の夫人がメイに男女のことを教えるのも、鍵の掛かった暗い部屋の中でではなく、ちょっとした家事をしながらオープンな場所でカジュアルに伝えている。

 またこの映画に登場する3人の夫人は、そのまま一人の女性がどのように性的に成熟していくかを表現しているようでもある。震えながらの初夜を迎えたばかりのメイにとっては、第一夫人が「荒々しく」求められることが好むというのをまだ理解できない。また自分の欲望に忠実な第二夫人は、同じ女性から見てもとてもセクシーで魅惑的だ。

  物語の最初は幼かったメイがそんな夫人たちと暮らすうち、徐々に大人の女性へと成長していく過程が丁寧に描かれている。

今すぐベトナムに旅したくなるような、映像の美しさ。

 『第三夫人と髪飾り』は、世界遺産となっている北ベトナムのニンビン省チャンアンの美しい風景の中で撮影された映像の美しさも大きな魅力の一つだ。

 日本では見たこともないようなごつごつした岩山と、静謐なエメラルドグリーンの水辺。まさしく桃源郷という言葉がぴったりの清らかな小川や自然の不思議を感じさせる鍾乳洞など、美しい風景の数々に心が浄化されるようだ。

 また、19世紀のベトナムを再現した美術や建物、主人公たちが身につけている衣服も美しく、それらを見ているだけでもうっとりしてしまう。

 この作品の背景に静かに存在する美しい自然やモノ達が、過酷な運命に翻弄される女性たちの物語を鮮烈に引き立てている。

ベトナム生まれの新人女性監督アッシュ・メイフェア

 『第三夫人と髪飾り』の脚本・監督を務めたのは、ベトナム出身の女性映画監督アッシュ・メイフェアで、この作品は彼女の長編デビュー作となる。

 メイフェア監督は14歳までベトナムで育ち、それ以降は海外で教育を受け、ニューヨーク大学大学院に進みそこで映画作りを学んだとのこと。ニューヨーク大学といえば数々の有名映画監督や俳優を輩出している名門校。本作が長編デビュー作でもあるにもかかわらず、すでにトロント国際映画祭、シカゴ国際映画祭など51もの映画祭で上映され、数々の映画賞を獲得しているとのことで、今後の活躍が期待される映画監督だ。

 この作品をメイフェア監督は徹底したこだわりぶりで作り上げた。脚本の完成とリサーチに3年かかり、作品の完成までには5年を費やしたそう。また主役のメイ役の俳優を決めるまでに900人もの少女と会い、撮影前にはキャストに 19世紀の暮らしを体験してもらうためロケ地で4ヶ月暮らし、1ヶ月をかけてリハーサルしたとのこと。監督がそれだけの熱量を注いだのは、この物語を語り継ぐべきだという使命感を感じていたからに違いない。

 その情熱に同郷の世界的映画監督トラン・アン・ユンや、ニューヨーク大学のOBであるスパイク・リー監督が彼女をサポートするのもうなずける。同じ女性としてメイフェア監督の活躍に勇気をもらい、今後を応援したい女性監督の一人になった。

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